スタンドアップで狙う国産巨大マグロ

ニュージーランドで3年連続挑んだスタンドアップでの巨大クロマグロを国内でも試してみたい。そう思って1年前から挑んでいる。
最初の挑戦は昨年の1月。このときはサンマが多く、イカを餌にしている漁師さんも大苦戦。我々もマグロは目の前で大量に跳ねているのだが食わせられないジレンマだった。そこでキャスティングに切り替えて実測36キロのマグロをキャッチ。ラインは1センチも出ず、あっという間に勝負はついた。跳ねているマグロのほとんどが70~100キロくらいあるのに一番小さいのがヒットしてしまい、悔しさの残る釣行だった。
2回目は昨年の11月だった。これは俺一人で船をチャーターしていたが、悪天候で中止となってしまった。
そして今年の1月29日から31日まで3回目の挑戦となった。
同行は5人だが挑戦者は変態ビルダー、メジ2号、そして鬼引き漁師である。俺は撮影と補佐役に回り、び~るだ~さんは宴会メインで参加した(笑)。
船は今回も八丸。八田船長は昨年8月にニュージーランドのクロマグロに挑戦。スタンドアップで8時間50分交代しないでファイトした。そのファイトはすさまじいものだった。今でも脳裏にはっきりと残っている。
マグロは残り10メートルくらいになってからしぶとい。200キロを超すマグロはそこから2時間も3時間もファイトが続くことが多い。とくに昼のマグロはしぶとく、ギャフが届く距離までなかなか寄ってこない。専業の漁師さんは電気ショッカーを使うのであっけなく勝負は終わるが、我々は電気ショッカーは使わず、最後まで交代無しでスタンドアップで続ける。マグロの魚体が見えてからが長いのだ。夜間なら警戒心が薄れるのか、比較的潜らず、寄せやすい。俺のスピニングタックルでの250キロもイチローの186キロのキャスティングマグロもキャッチは真夜中だった。ところが昼のマグロはときに500メートル以上も一気に潜ってしまうこともある。こうなるとスピニングの範囲ではない。
七里が曽根は水深が60メートル前後と浅く、深く潜れないので比較的取りやすいと予測していた。竜飛や大間も浅い。深いところへ走られなければ勝負は有利に進むだろう。ニュージーランドは水深が700~900メートルと深く、スピニングで日中挑むのは無謀とも言えるだろう。
1日目の29日は悪天候で中止となってしまった。冬の日本海は荒れる日が多い。巨大クロマグロはファイトも大変だが、挑むために耐えること、待つこと、そして持続する情熱も必要なのである。俺は27年以上大物釣りを続けているので忍耐力はかなり養われている(苦笑)。磯の上に一ヶ月以上寝泊りしたこともある。それでも目的の魚には出会えなかった・・・
その日は八田船長の仕掛け教室となり2時間ほど見ながら学んだ。そのあと近くの海上温泉「パレア」に行き、温泉とトレーニングジム、そしてマッサージと3時間ほどかけて体をリフレッシュした。
30日は若干風が残っていたが予定通り出船した。ポイントまでは1時間半。向かい波で船は大きく跳ね続けた。
ポイントに着いてしばらく様子を見た後に仕掛けを投入した。ハリスはフロロの60号。ニュージーランドでは150号だった。この細いハリスではランディング時に強引に寄せることは不可能だ。先端はザイロンを60センチほど繋ぎ、それを指でこして10センチくらいに短くしている。これはもともと萩の漁師さんが考えたもので、それを八田さんが改良して作ったものだ。磯釣り時代に「根付3寸」と教えられた。ナイロンのハリスの先に根付を結ぶのだが、それは3寸以内にしなさいと。長いと魚に見破られるのが理由だ。
ビルダーはミヨシに竿を出した。スピニングタックルである。ロッドはキャスティング用の8フィートのテストロッドだった。リールはステラSW20000PG、ラインはPE10号が巻いてあった。
同の間にメジ2号が陣取った。ロッドはカーペンターのブラックビーストBB52B-SGである。リールはアキュレートの50Wだった。
オオトモは鬼引きだった。ロッドはカーペンターのブラックビーストBB52B-SG、リールはケンマツ50S、ラインはサンラインのPEジガー8HG10号だ。
ベイトは大き目のアオリイカ。これに針を2本かけた。1本はインターフックの28番、もう1本は一回り小さい針だった。ニュージーランドではオーナーのスーパームツ45番だった。針も小さいのでフルドラグにしたとき口切れしないか不安だ。
昨年と同じでサンマがあちこちで跳ね、マグロが襲い掛かっていた。サイズは30~100キロくらいまでである。ときおり、我々の仕掛けの側を通るのだが、アオリイカには見向きもしなかった。回りの漁師さんもイカを餌にしているので苦戦していた。
午後になり潮が変わったのを機にポイントを移動した。そこでしばらく待つ。俺はキャビンで寝ていた。
ついにそのときが来た!
13時1分、オオトモに出していた鬼引きのリールがけたたましく鳴り出した。船長の合図で他の二人は仕掛けを回収する。鬼引きはハーネスを付けようとするのだが焦っててこずっている。その間にラインはどんどん出て行く。ときおりラインが止まると回収するのだが、ハーネスがまだ完全に付けられてない。そんなてんてこ舞いの状況が2分くらい続いた。ドラグは初挑戦ということもあり15キロくらいにしてあった。

ようやくハーネスをセットしてスタンドアップファイトを開始する。前日に練習をやったのだが、なかなか上手くいかない。マグロは水深が60メートルくらいしかないので横へ横へと走る。それを船が追いかける。船団の中でヒットしたので行き先に漁船が見える。このままではクロスしてしまいそうだ。ところが行き先に見える漁船は仕掛けをいそいで回収して移動を始めた。さらに次の船も。そしてさらに次の船も。マグロの走る方向にいた漁船はすべて移動してくれた。

日ごろ嫌な思いを感じる漁師さんだが、今回は心から嬉しかった。これも日ごろから八丸がルールを守った釣りをしているからだろうと思った。七里が曽根は壱岐の漁師さんが守っているからマグロが釣れるんだとあらためて思った。巻き網から壱岐の漁師さんが監視して守っているのだ。その費用は年間1500万円と聞いている。遊漁船も団結して話し合い、その一部を負担することも必要なのではないだろうか。

マグロは15分くらいで動くのをやめ、鬼引きが攻勢に転じた。あまりにも簡単に寄ってくるので当初100キロ以上あるだろうと思っていたが、50キロくらいかなと思った。そして魚体が見えた。「あれ?」マグロは尻尾から浮いてきた。なんとハリスが体に巻きついていたのだ。魚は後方へ引かれると呼吸ができない。どんな魚も短時間でギブアップする。するすると寄ってきてモリをかける直前に気がついたかのように大暴れした。そのとき体に巻きついていたハリスが外れて再び猛ダッシュした。60メートルくらい一気に走って止まった。どうやらこれが最後の抵抗だったようだ。



その後はほとんど抵抗らしい抵抗もせず、マグロとの距離は詰まっていった。完全に酸欠で動けないようだった。
ヒットしてから47分後、モリが打ち込まれた。鬼引きとはクジ運がやたらと強いことから付けられたあだ名だが、今回も運の強さを証明していた。そして釣り上げたマグロは予想していたよりはるかに大きかった。これには船上の全員が大歓声を上げて喜んだ。







ドラグはファイト終了後に計測すると19キロだった。横へ横へと走るので追いかけることが多く、強いドラグの必要性はあまり感じなかった。また横方向に走るためラインが魚体に絡みやすいようだ。ラインも400メートル巻いてあればほぼ大丈夫だろう。
ランディング後、船長がニュージーランドで経験しておいて良かったと喜んでいた。俺も3年間の経験が生かされたと思った。ファイト中慌てることも無く指示ができた。最後まで安心して見守ることができた。また鬼引きも時間が経つにつれファイトがどんどん上達していた。
港に戻り正式に計量すると190.9キロだった。港にいた人たちもビックリの大きさだった。




終始スタンドアップで交代無しで釣り上げたマグロとしては国内最高だろう。
※座ってのファイトや電動リール+ウインチ(ロッドキーパーで船べりに固定する)なら過去に何匹か300キロオーバーがキャッチされている。
このマグロは大量のイカを食べていた。表層でサンマを追うマグロとは別のグループなのだろう。それとも巨大マグロはイカが好きなのかもしれない。

解体は大変だった。

このタックル+システムなら300キロも問題ないだろう。事実ニュージーランドでは310キロを筆頭に200キロオーバーを単独スタンドアップファイトで20匹キャッチしているのだから。

ロッド:カーペンター・ブラックビーストBB52B-SG
リール:ケンマツ50S
ライン:サンライン・PEジガー8・HG・10号
ハリス:フロロ60号
ベイト:アオリイカ
ファイティングタイム:47分
スタンドアップファイトで交代なし
アングラー:川原こうじ(鬼引き漁師・田中軍団所属)
船:八丸(八田船長)
目標は単独スタンドアップでの国内300キロオーバーである。それを釣り上げる土台は完成した。
あとはアングラーの気力と体力だけである。
マグロ以外の釣果
び~るだ~さんはジギングで大活躍。13キロのヒラマサを頭に4匹キャッチ。マダイも3.7キロをキャッチ。そのマダイはマグロ祝勝会で姿造りになりました。


ビルダーはフカセの合間にやったキャスティングでブリをキャッチ。12月上旬からずっと九州に滞在してロッドとルアーのテストをしている。宿はハイエースの車内(爆)。風呂は3日に1回500円払って温泉(海上温泉パレア)だそうだ。そろそろ怪しまれて通報されそうですと苦笑いしていた。ここまで徹底してテストしているから素晴らしいロッドやルアーが完成するのだろう。凄い奴である。


さて次はキャスティングで100キロオーバーを狙っていただきます。