2017/01/24

成果はあったのか?

国立研究開発法人「水産研究・教育機構」主催の成果発表会に行ってきた。
水産庁の影のドンと言われる宮原理事長がこの最高責任者です。国際マグロ会議(WCPFC)に政府代表で出席した太田審議官も来てました。

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俺の成果は宮原さんと対談の約束を取れたことです。いつでも来てくださいと言われました。俺は話し合うことがいつも一番だと思ってます。


開会の挨拶をする宮原理事長

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会での主なやりとり

質問1
「茂木陽一です。100以上質問したいことがあるんですが、時間もないので一つだけ質問します。マグロとカツオとメカジキのお話を聞きましたが、カツオとメカジキは電子標識(アーカイバルタグ)による回遊調査のお話がありましたが、クロマグロは増える増えないのシミュレーションが主で、タグによる回遊調査のお話がありませんでした。俺は何度もニュージーランドに行ってますが、アメリカからジョージ・シリンガーと言う若い学者が来て毎年40本のポップアップタグをクロマグロに打ってました。アメリカのノースカロライナでは釣り船でさえアーカイバルタグを打ってました。カナダのプリンスエドワードでは目の前で何匹もタグを打ってリリースしているのを見ています。アメリカの西海岸でもたくさんのクロマグロにタグを打ってリリースしています。その数は数千本になると思います。そしてその調査の結果をインターネットで確認することもできます。しかし、日本では打ってるのか打ってないのか、回遊経路はなど水産庁のサイトを見ても何も出てきません。
先ほど産卵親魚の話が出ましたが、3歳ころは日本海で、5歳ころから太平洋側という推論のお話でしたが、そんなことは産卵個体にタグを打って調べればわかると思います。また日本海も昔は5歳以上のマグロがたくさん産卵してました。乱獲で大型がいなくなり、3歳の大人になったばかりのマグロが産卵しているのではと考えてます。日本海のマグロと太平洋側のマグロの産卵個体にタグを打って調査するか、DNA鑑定など調べるべきだと思います。また日本海群と太平洋群で分けて産卵個体を調査したらどうですか?ところでいままでどれだけ打ってきたのですか?」
水産庁「マグロの報告ではそのような話はありませんでしたが、タグを打って調査はしています」
俺「ですから、どのくらいのタグを打ったのですか?」
水産庁「耳石などからもいろいろなことがわかってきています」
俺「そんなことは聞いてないです。何本打ったのですか?」「水産庁の偉い人が前の席にいっぱい座ってますから、誰か答えられると思います」
右側の最前列から「10本」
俺「わかりました。たったの10本ですね。ありがとうございます」

クロマグロを一番獲り、一番買って、一番食べている日本がたったの10本。ビックリしました。10年前から打っているとしたら年に1本です。そんな少ないタグでは産卵個体の回遊、生態、正確な親魚資源量の調査は出来ないと思います。アメリカは日本の100倍以上もタグを打ってます。



これはアメリカが調査した太平洋クロマグロの回遊経路。太平洋クロマグロは子供のころに一度だけアメリカ西海岸まで回遊することがわかっている(回遊するのはかなりの個体数と思う)。2~3年その海で成長して大人(3~5歳)になるころは日本近海に戻ってくる。そのあとは2度と渡らない。

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ソース
http://rtseablog.blogspot.jp/2011/06/tagging-of-pacific-predators-decade-of.html



これは大西洋クロマグロのタギング調査。産卵親魚の回遊だと思う。生まれたところに戻って産卵するというのがよくわかる。
※大西洋クロマグロの産卵場は地中海とメキシコ湾

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ソース
http://news.stanford.edu/news/2005/may4/tuna-042705.html



これはミナミマグロのタギング調査

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このように海外のサイトでは、タギング関係の報告を無数に確認することができる。
この二つで検索すれば、数え切れないほど出てくる。
Tuna Tagging

ところが日本が調査した太平洋クロマグロ産卵個体のタギング調査は一つも出てこない。

世界で一番クロマグロを利用しているのに、実に不思議である。



質問2

続いて将来予測の質問をしました。平均加入が続くと2032年には現在の20倍近い30万トンに達します。
俺「そのシミュレーションでは平均加入が続くと2032年には30万トンに増えるようですが、マグロが食べるエサはあるのですか?」「餌は大切です。毎年行っているカナダではニシンが回遊してようやくマグロ漁が本格的になります」「先ほどのお話ではサンマも危機的、そしてスルメも史上最低レベルまで資源は減っていると聞いてます。餌が無ければマグロは育ちません」「この数字が信頼できるならデモはやりませんけど」(笑)
水産庁「それは計算上だけのシミュレーションで、餌や環境のことは計算に入れてません」

そんなグラフを見せて、みんなが納得するのですかね?
30万トンのマグロのお腹を満たすには最低でも年間300万トンの餌が必要だと思います。ありえない数字です。



これが将来予測。単純に計算しただけである。

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初期資源量とか、歴史的中間値に関しても質問しました。初期と言うのは紛らわしい言い方で、正確には「漁業を止めればこのくらいまで増えるだろう」という推定値です。初期資源量65万トンは簡単に考えておかしな数字です。現在の餌の資源量を考えれば20万トンが限界だと思います。歴史的中間値というのも、1952年以降の中間値だから、1952年以降の中間値と言うべきです。マグロの漁獲規制の基準がいっぱい獲れていた2002年から2004年と言うのもおかしいです。直前の2012年から2014年の平均値にすべきです。こうした背景にまき網を擁護するという魂胆が俺には見えてきます。


サンマなどの漁場がどんどん東に移動しているのも、大きな問題です。もしサンマがEEZの外側にしか集まらないようになったら、クロマグロはそこまで食べに行くでしょう。そうしたら確実に中国のまき網、虎網が狙うと思います。EEZの中の水産資源を回復させないと日本の水産業はさらに加速して衰退します。せっかく世界で6位のEEZ(排他的経済水域)を持ちながら、まったく有効に利用してません。



標識タグからわかったカツオの移動

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カツオは20℃以下の水温を嫌う。

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沖縄方面から北上するカツオ

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電子標識で推定したメカジキの回遊経路

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サンマは日本から離れれば離れるほど小さくなる。漁期も早い。

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漁獲も減っているが、漁期も年々短くなっている。

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漁場はどんどん遠くなる。時間も燃料代も増え、サイズも小型が多くなる。

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2015年のサンマの漁獲はすべての国が減少している。

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人工衛星で漁船の動きや、どこの船なのかがわかる。

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我が国のEEZ外で漁をする台湾や中国の漁船。集合しているところの、どれがサンマ漁で、どれがサバ漁かなどもわかりつつある。

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全員の発表が終わって質疑応答が始まった。森君も質問した「回復目標の達成率をもっと高く設定するべきだ」

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終わったとは宮原理事長と中野さんにダイレクトに質問。そして宮原理事長に対談をお願いしたところ、喜んで受けていただいた。

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森君も熱心に聞いてました。実に頼もしい若者です。

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終わって一言。

やはり話し合うことが大切。

わからないことは聞くこと。

それにしても質問者が少ないのにも驚いた。疑問て感じないんでしょうか?


さて締め切りギリギリの写真集のキャプションを片付けなければ・・・