2021/11/09

連載4 クロマグロの遊漁の規制は釣り人不在で決められた。

俺と水産庁のやりとりはもう5年以上になるが、今回のクロマグロ新ルールに関しては2020年9月から開始した。

昨年の9月14日に俺が水産庁に送ったメール

クロマグロの遊漁、プレジャーもライセンス制を取り入れたらどうですか?
レギュレーションは30キロ以上を1人1日1匹です。
そして遊漁の枠を漁業の枠とは別に設けることです。
アメリカはコマーシャル(漁業)とスポーツ(遊漁)の枠が別々に設けられてます。ですから漁業者と遊漁のトラブルはありません。そして海洋水産資源は国民共有の財産として公平に管理されてます。

北海道の沿岸(知事管理)は30キロ未満が102トン、30キロ以上が288トン、合計390トンの枠があります。このうちの3パーセントにあたる13トンを遊漁の枠にしたらどうでしょうか?
そしてレギュレーションは1人1日1匹。30キロ未満は採捕不可、もし釣れてしまった場合はリリースすること。捕獲したマグロの売買は禁止とする。捕獲の報告は1週間以内(アメリカは24時間以内)にする。

罰則も設けないと効力は半減。悪い人が得することになります。
違反したら罰金の他にライセンスの取り上げ、もしくは停止でいいと思います。

俺の案は水産庁内で共有されて、新ルールの骨格の一部となった。

そして3月18日の日本海・九州西の広域漁業調整委員会に釣り人として初めて傍聴参加した。

驚いたことはこの広域漁業調整委員会の委員に釣り人は1人もいないのである。その会議で釣り人の規制が決められているのだ。民主主義はここには存在しない。


今回出された(案)
※画像はクリックすると大きくなります。


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そのときの発言の一部(議事録から)

○山内委員
遊漁者についての最終的には枠を与えて管理するというようなお話もありましたけれども、そもそもこの遊漁者、700万人ほどいらっしゃるということですが、数の多さにちょっとびっくりしております。ですので、漁業者よりは多いのかなと思ったりはしますが、厳格な管理をしていただきたいなと思います。
今回の内容については非常に甘いんじゃないかなと思っております。小型魚に関しては直ちに放流しなさいということではあるんですが、大型魚についてはなぜ釣り上げることを許しているのか、そして報告するのは当然のことだと思いますけれども、遊漁者の皆さんには放流という文化もありますので、大型魚についても放流すべきじゃないのかと思ったりもします。

○中島委員
ただし、5トン、6トンといいますけれども、大型魚、各都道府県に配分されている量というのは、各都道府県ごとに言いますと、5トン、6トンもないところもあるわけですね。ですから、漁民感情からすれば、ちょっと許せる数値じゃないのかなというような気もいたします。

この5トン6トンに関して調べてみると、5トン以下の都道府県はほとんど瀬戸内海だった。クロマグロが回遊してこない地域であり、クロマグロを生業とする漁師もいない。姑息な発言としか思えない。

しかも釣り人の漁獲は我が国の全漁獲10,400トンの0.2パーセントしかない。これを規制しても資源回復への効果はほとんどない。


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6月1日に遊漁によるクロマグロ釣りの新しい規制がスタートした。
30キロ未満が釣れてしまった場合は速やかに放流。30キロ以上を釣ったときは10日以内に水産庁に報告。このときも遊漁の枠は未公表だった。どのポスターにも20トンという数字は書かれてない。


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釣り人は30キロ以上のクロマグロを釣った場合、枠の制限が決められてないのだから報告をちゃんとやれば何匹キープしてもよいと思ったのは事実である。そして直前の採捕実績が資源管理の基本となることが国際会議では常識である。海外のそのような例を参考にして、俺も釣り人に「採捕報告は必ずやってください」と伝えていた。20トンという枠がわかっていたならリリースする釣り人が多かっただろう(リリースすれば採捕報告はしなくてよい)。
その結果、開始2週間で報告は10トンを超えた。


突然、水産庁から「30キロ以上も採捕自粛のお願い」のメールが採捕報告をした釣り人に届いた。

これが6月18日水産庁から釣り人に送られたメールだが、俺には届かなかった。


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釣り人からのメールが午前中次々届いた。まったく予想もしてなかった水産庁の対応に裏切られたという怒りがこみあげてきた。何度も電話をするが担当者は不在という返事。このコロナ禍の中で3人とも不在なんてあるわけない・・・
メールを送っても返事がなかった。

送ったメール

真面目に報告した結果が採捕禁止ですか?
青森や北海道の遊漁船や旅館、ホテルは経営難になりますよ。
そして今後水産庁へ協力することはなくなります。
10トンを超すなんて、真面目に報告すれば誰でもわかっていたことです。
それと俺には無報告というのも腹が立ちます。
全国に出向いて釣り人、船長に会い、今後の対策を話し合ってきました。
交通費も宿泊費も自腹です。

ようやく夜の9時過ぎに水産庁から返事が来た。

茂木様

 お世話になっております。
ご連絡いただきありがとうございます。
また、お電話も頂いており、不在で失礼しました。

 電話にて対応した者からも説明有ったかと思いますが、
今回の措置は採捕禁止ではありません。

 また、キャッチ&リリースしていただく分には大丈夫ですし、本措置は、現在、漁獲が著しい日本海への注意喚起であり、太平洋側は大丈夫ですが、文書の本文にも記載しておりますとおり、国の枠が決まっている以上、このままの状況が続けば、採捕禁止などの措置も検討せざるを得ない状況ではあります。

 また、遊漁で年間10トン程度を採捕するであろうということは、過去の実績値から想定はしていましたが、2週間で超えるとは予想していませんでした。

 茂木さんへの報告が出来なかったことは、素直にお詫びいたします。申し訳ございません。

 失礼いたします。      水産庁


7月29日太平洋広域漁業調整委員会の会議で初めて20トンという枠の話が出た。

また、クロマグロの我が国の漁獲枠の中で、国の留保枠として留保しておりますのが81.7トンございますが、遊漁による漁獲というのはこの中で吸収していかなければならないというものなのですが、ただ、この81.7トンのうち50トン程度は漁業における突発的な漁獲の積み上がりに備えておく必要があると。それから、10トン程度は試験研究、実習船などによる漁獲への充当分として取っておく必要があるという状況にあります。
 すなわち、遊漁による漁獲に充当できるのは、これらの差引き20トン程度の数量が限界ということになります。

いまさら20トンと言われても・・・

遅すぎます。


参考人として出席したJGFA代表の森さんの会議での発言の一部
※参考人は意見を言うだけで議決権はない。

特にクロマグロ、今回のクロマグロに関して採捕禁止の意味合い、リリース前提で釣りはしていいのかどうか、そこを明確にしてほしいと思います。
 もしキャッチ・アンド・リリースが認められるんであれば、「採捕禁止」という言葉ではなく、別の言葉を使っていただきたいと思います。

それに対する水産庁の返事

それから、JGFAの森様から幾つか御指摘を頂いていた話のうち、まず最後の方で頂きました採捕禁止の意味合い。キャッチ・アンド・リリースの取扱いというものを明確にする必要があるということなんですけれども、キャッチ・アンド・リリース、放流との関係につきましては、この委員会指示の39号、今回の40号もそうなんですけれども、明確にしてはおります。資料の1-2を御覧いただければと思うんですが、今回の大型魚の採捕の制限につきましても、資料1-2の2の(2)の後段、まず「採捕してはならない」とありますけれども、「意図せず採捕した場合には、直ちに放流しなければならない」という書き方にしております。これは39号の小型魚についても同じです。これ「意図せず」というところが若干引っかかるかもしれませんけれども、仮に釣り人がキャッチ・アンド・リリースをしたという場合には、これは採捕禁止の違反になるのかというと、これはならないですし、報告義務というのも発生しないということで、お問合せ、照会があれば、そのようにお答えしておりますし、規制の意図としては、キャッチ・アンド・リリースは対象としないということになります。これはここにこうはっきり書いてあるからなんですけれども。


8月20日水産庁から俺へのメール

 キャッチ&リリースについては、先日行われた広域漁業調整委員会でも、当室の松尾室長から、確かJGFAの立場として出席されていた森さんと、何度も議論したと記憶していますが、採捕禁止の措置を出している以上、狙って良いかと聞かれれば、公式見解として「良い」とは言えませんが、他方で、速やかに海中に放流すれば違反とはならないことも何度も説明させていただきましたので、その文脈で当方の意図を汲んでいただければと思います。

公式的にC&Rを認めるには、リリース手法の確立、リリース後の生残についての科学的知見の積み上げにより、欧米のようにC&Rが一般化する必要が有りますが、現状では、確か、太平洋の広域漁業調整委員会だったと思いますが、どこかの大学の先生から、茂木さんたちが行っているリリース方式について、疑問が投げかけられていたと記憶しています。



ところが

そして8月21日に突然採捕禁止となった。


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さらに8月23日の午後5時ころにキャッチアンドリリースも認めないと発表があった。

ここには公開できないが(電話をしたのは別人なので)、23日の昼ころまで「キャッチアンドリリースをすれば違反ではない」という回答だった。


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なぜ突然キャッチアンドリリースも認めないとなったのか?

数日後、自民党関係者から「自民党の某代議士が動いた」という話を聞いた。派閥の領袖クラスの代議士である。

パブリックコメントも取らず、民主的な方法を一切無視して釣り人の「釣り禁止」は決定されたのである。

※パブリックコメントの定義
行政機関が規制の設定や改廃をするとき,原案を公表し,国民の意見を求め,それを考慮して決定する制度。1999年(平成11)から全省庁に適用された。


水産庁のFacebookページには反論、不満のコメントが圧倒的に多かった。

俺も全く納得がいかないのでコメントした。



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水産庁の二転三転する返事にも振り回されたが、肝心なところは電話で話すやり方は姑息としか言いようがない。iPhonには通話を録音する機能がない。

8月24日 委員会で参考人として発言した森君のFacebookコメント

初日(太平洋側)の会議が終わり、2日目(日本海側)の会議が始まる前に、水産庁から直接お電話を頂き、キャッチ&リリースは認めるから、会議に於いてあまり採捕禁止の意味合い等について追及しないで欲しいと言われました。
そして2日目の会議に於いて、採捕禁止の意味合いについて水産庁から説明があり、意図的に狙う事を良いとは言えない、そして採捕禁止とは、準備行為も含めて違反となると言われましたが、先の電話の件もあったので、ぐっと堪えて追及しませんでした。
結果的には議事録として残るのは水産庁の意図的に狙う事は良いとは言えないと言った発言。電話は議事録に残りません。
キャッチ&リリースは認めるから、あまり深く公の場では話し難い事を追及しないで欲しいと電話で言われ事は、議事録にもメールにも残らず、結果的に私は会議で黙らされ、騙されたと言う感想を抱いています。証拠は残ってませんが、私の記憶は消せませんし、水産庁に対する不信感も、きちんと納得がいく説明が無い限りは消えません。


水産庁にたいする不信感。これは修復不可能なレベルである。


そして、多くの釣り人が自粛した。


ところが、釣り人が自粛しても資源回復の効果がゼロになるような出来事が日本のあちこちで起きた。



五島沖でクロマグロを100トン以上捨てたまき網


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青森のスーパーには1匹100円、重さ300グラム未満のメジ(クロマグロの子供)が大量に並んだ。

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対馬沖でまき網が6キロ前後のメジ(クロマグロの子供)を合計200トン以上も水揚げ。匹数に換算するとなんと3万匹以上である。

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大間漁協のクロマグロ無報告事件。国と県は1000本以上の無報告があったと指摘している。漁獲報告をしないで仲買に渡していたのである。これは脱税でもある。

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愚かすぎる我が国のクロマグロ漁業。

資源管理を無視した漁業。

我々釣り人はなんのために自粛したのか?

釣り人は釣りをするために一生懸命働き納税の義務を果たしている。そして地方経済に大きく貢献している。そんな釣り人の楽しみを勝手に奪っていいのだろうか?


それは現在も続いている。


来年は水産庁に従わない釣り人と漁業者がさらに増えるだろう。


その原因は水産庁にある。