これが世界が注目する漁業管理?その1
今年もまき網は産卵期を狙って日本海のあちこちで大暴れするらしい。すでに本日30日に境港にて水揚げも始まった。成魚(30キロ以上)の漁獲枠は6月と7月の2か月間で1800トンと昨年5月に決まったのだが、毎年フライングで漁獲枠外を獲っている。困った大人たちである。
しかも壱岐と対馬の漁師さんは昨年に引き続き、6月と7月の産卵期はマグロに卵を産ませるために漁を自粛。
北部九州遊漁船連絡協議会のメンバーである25艇の釣り船も今年の6月と7月は自粛すると決定した。
もちろんほとんどの釣り人も自粛(船もない)である。
みんなが1日でも早く昔の海に戻したいと自粛しているときに卵を産みに来たマグロを一網打尽にするまき網は俺には泥棒にしか見えない。
この数週間、マグロ漁業の歴史を調べた。わが国では縄文時代からクロマグロを獲っていたらしい。江戸時代には沖縄から北海道までマグロ漁が行われていた。
しかし、本格的に獲り始めたのは明治になってからである。そして高級魚として扱われるようになったのは昭和の高度成長期以降である。そして冷凍設備が発達してトロの需要が一気に増えた。なんとそれまではトロはほとんど捨てていたのである。
さて、こんな本が見つかった。2013年に発行されたFRANEWS36号。
その中に、こんな記事が
「世界が注目する日本の漁業管理」
水産庁が得意とする自画自賛の記事である。もちろん執筆は御用学者?
この記事をおおまかに解説すると
「日本は古くから漁業者が自主的に管理してきた」「獲りすぎるといなくなることを知っていて、自分たちで管理してきた」
「欧米は誰でも漁業ができて自由競争である」「自由競争のもとでは獲りすぎることがあるため国が積極的に監視してきた」
この図を見る限りでは日本の漁業は欧米より優れていると誰でも見えてしまう。
ところが競争をしているのは実は日本なのである。日本は一部の魚を除いて漁獲枠がない。だから基本獲り放題である。漁獲枠のある魚(TACは7種のみ)でも個別に割り当てられてないので、早い者勝ちとなり、競争して魚を獲る。そのため漁獲が一時期に集中して値崩れを起こす。早い者勝ちなので美味しくなる時期まで待ってられない。そのため小さくても美味しくなくても獲る。
欧米はIQ方式(個別割り当て)を採用しているので、漁業者にはあらかじめ漁獲枠が与えられている。だから慌てて獲りに行く必要はない。競争する必要もない。魚が美味しい時期、もしくは値が高くなる時期まで待って漁に出る。資源管理も科学的根拠をもとにされているので資源も多く、短時間で目標の漁獲を達成できる。それと誰でも漁業ができるなんて大嘘である。アメリカでは釣り人が釣った魚の売買は違反である。売買した場合、双方に高額の罰金、悪質なら逮捕である。
水産庁関係者は過去に確認もせずに自分たちに都合のよい出鱈目を何度も広めている。
以下参照
スポーツフィッシングは誤解されている
http://uminchumogi.blog111.fc2.com/blog-entry-441.html
下の図は我が国が5年おきに出す基本計画である。毎回漁獲量が回復に転じるという計画を立てるのだが、結果は図の通り減るばかりである。そのたびに修正して回復目標を出しているのだが、笑うしかない結果である。
さらに我が国と世界の漁業生産の比較。
世界は右肩上がり。
日本は右肩下がり。
さらに世界銀行の未来予測。日本だけがマイナス成長。
世界は日本を失敗例として注目してるのだ。
突然削除!?
次に昨年の境港でおきたこと。境港はクロマグロのまき網船が集結する港である。日本海の産卵期に漁獲されたクロマグロのほとんどが境港に水揚げされる。
境港はホームページで水揚げ量、水揚げした漁船を報告していたが、昨年の7月末に突然漁船の名前を削除してしまった。これは船名で所有会社がばれることを隠すためと思われる。産卵期のマグロ漁に対して後ろめたいものがあるから削除したということだろう。正しいことなら削除などする必要はない。
境港HP
http://www.sakaiminato.net/site2/page/suisan/conents/news/130/80/attach01.pdf
ちなみに削除前のデータは保存してあります。
5月29日 19.6トン 第1光洋丸(共和水産)
6月1日 43.2トン 第1光洋丸(共和水産)
6月9日 50.3トン 第63惣宝丸(青森県)
6月12日 2.5トン 第8光洋丸(共和水産)
6月12日 14.3トン 第21たいよう丸(東京都)
6月15日 43.1トン 第63惣宝丸(青森県)
6月15日 51.5トン 第18輪島丸(石川県)
6月16日 61.7トン 第18輪島丸(石川県)
6月16日 34.4トン 第1光洋丸(共和水産)
6月17日 122.9トン 第28光洋丸(共和水産)
6月17日 10.3トン 第21たいよう丸(東京都)
6月18日 107.1トン 第8光洋丸(共和水産)
6月19日 64.3トン 第1光洋丸(共和水産)
6月19日 43.4トン 第21たいよう丸(東京都)
6月20日 43.7トン 第18輪島丸(石川県)
6月21日 52.9トン 第1わかば丸(鳥取県)
6月22日 37.0トン 第1わかば丸(鳥取県)
6月25日 40.0トン 第18輪島丸(石川県)
6月26日 14.7トン 第18輪島丸(石川県)
6月26日 15.3トン 第21たいよう丸(東京都)
7月2日 91.3トン 第21たいよう丸(東京都)
7月4日 44.6トン 第28光洋丸(共和水産)
7月5日 59.5トン 第21源福丸(長崎県)
7月5日 16.9トン 第21たいよう丸(東京都)
7月6日 36.8トン 第21たいよう丸(東京都)
7月6日 17.7トン 第1光洋丸(共和水産)
7月8日 49.7トン 第1光洋丸(共和水産)
7月9日 54.9トン 第21源福丸(長崎県)
7月12日 45.5トン 第21源福丸(長崎県)
7月13日 15.9トン 第1光洋丸(共和水産)
7月14日 48.8トン 第18輪島丸(石川県)
7月15日 33.6トン 第21たいよう丸(東京都)
7月22日 34.8トン 第21たいよう丸(東京都)
合計 1422.2トン
※共和水産(ニッスイグループ)521.9トン
※たいよう丸(マルハニチロ)296.7トン
※輪島丸(石川県)260.4トン
※源福丸(長崎県)159.9トン
※惣宝丸(青森県)93.4トン
※わかば丸(鳥取県)89.9トン
そして境港の年度別の平均サイズ。まき網が本格的にまき始めた1980年代前半は100キロ台だったが、近年は30キロ台が続いている。100キロだと6~7歳、30キロ台だと3歳である。あきらかに小型化している。これは乱獲から起こる現象である。
1982 118.7キロ
1983 112.9キロ
1984 155.3キロ
1985 155.1キロ
1987 77.9キロ
1988 85.4キロ
1989 97.6キロ
1991 81.0キロ
1992 70.5キロ
1993 39.4キロ
1994 43.0キロ
1995 66.5キロ
1996 83.1キロ
1997 105.4キロ
1998 54.7キロ
1999 62.8キロ
2000 82.9キロ
2001 95.3キロ
2002 104.4キロ
2003 64.0キロ
2004 52.7キロ
2005 64.7キロ
2006 82.3キロ
2007 43.9キロ
2008 50.0キロ
2009 53.2キロ
2010 37.6キロ
2011 40.7キロ
2012 65.0キロ
2013 34.8キロ
2014 35.6キロ
1982年の漁場と漁獲した日付。山陰の狭い海域でわずか18日間の出漁で1637トンを水揚げした。
今では日本海の北は秋田から、南は長崎までを漁場として2か月間本気で頑張って1500トン前後である。しかも船の設備(魚探、ソナー、GPSなど)は格段に進歩している。クロマグロの資源量は間違いなく減少している。
なんと2パーセントまで激減!
そして太平洋クロマグロは初期資源量(親魚)の2パーセント未満まで激減した。2014年にはとうとう絶滅危惧種となってしまった。初期資源60万トン以上もあったのが11000トン台まで激減したのである。
ちなみに大西洋クロマグロの産卵場は地中海とメキシコ湾だが、地中海は主に産卵後に漁獲、メキシコ湾は産卵場での親魚は捕獲禁止である。
続いて、このドクター・ミヤケさんという人。水産庁のOBらしいが、言ってることはメチャクチャである。
「それが1990年代に急激に日本海へシフトした」
「そのころから日本海のクロマグロの産卵が認められて・・・」
「南西諸島周辺に限られていたと思われた産卵場が・・・」
水産経済新聞より
下の図をみれば、1990年代は太平洋が中心で、2004年ころから日本海へシフトしたのがわかる。これは日本海のマグロが増えたのではなくて、太平洋のマグロが激減したからである。1990年代は産卵期でなくても巻き網で大量に獲れるほど太平洋側にクロマグロがいっぱいいた。それがどんどん減って効率が悪くなり、日本海の産卵期を狙うようになったのである。巻き網関係者(ニッスイ)ははっきりと「産卵期以外は漁獲しづらい」と言っている。
もし太平洋にマグロがいっぱいいたら、なにも一年のうち一番安くて美味しくない日本海の産卵期のマグロを狙うことはないはずである。
※1990年代の太平洋側の主なまき網の漁場は北海道、東北の東方沖。ここは産卵場ではない。
さらに日本海での産卵は1981年に確認されている。しかも当時は大型(6歳から10歳)の産卵親魚がたくさん獲れた。いまは3歳から4歳がほとんどである。
鳥取県境港におけるまき網により漁獲された大型クロマグロについて 1982年寄稿
http://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010263131.pdf
ミヤケさん、水産庁のためにもすっきりと引退を。
産卵期のマグロは一年のうちで一番安い。さらに巻き網で獲ったのは定置網で獲ったマグロの3分の1という安さである。美味しい時期、値が高い時期に獲るのが賢い漁業だと思うのだが。まったく資源の無駄遣いである。
昨年はキロ300円まで暴落した。冷凍のメバチやキハダより安い。別名黒いダイヤと呼ばれているのだが、これでは黒いただの石ころである。
地中海では主に産卵後に漁獲している。5月の満月で産卵は概ね終わり、5月25日にクロマグロ漁は解禁となる。しかも漁ができるのはたったの3週間。しかし今年は資源が大幅に回復したことで数日で漁獲枠に達したと聞いている。燃費も時間も実に効率的である。おかげで地中海のマグロ漁師はとんでもなくリッチだそうな。
アクアネット 2007年3月号より
さて、世界が注目する日本の漁業管理だが、なんと明治24年ころから乱獲という文字が使われている。
日本漁業史 P179より抜粋
明治24年 540万貫(20,169トン)
明治34年 350万貫(13,073トン)
明治40年 270万貫(10,085トン)
永きに亘る濫獲(らんかく)のために従来沿岸近くを回遊してきたマグロも、明治30年ごろから次第に減少し、漁場は沖合となり、従来の沿岸漁業では次第に捕獲困難となったからである。この時代に於いてもクロ・キハダ・ビンナガ・メバチ・カジキ等、何れも漁獲されたが、クロマグロ及びキハダが多かったのであろう。
明治の時代から北海道、富山、長崎ではたくさんのマグロが獲れていた。キハダは本来黒潮を好む。北海道や富山のマグロは、ほぼクロマグロと考えて間違いないだろう。
唐津城に展示されていた江戸時代のマグロ漁の絵。エンジンもない時代である。このころは沿岸をマグロが普通に回遊していたのだろう。しかも絵を見る限りでは軽く200キロ以上ありそうなマグロである。カナダのプリンスエドワード島は今でも巨大なマグロが沿岸を回遊している。
当時は大きなマグロが唐津城近くの海を回遊していたからできた漁。現在は沖に出てもマグロを探すのは困難である。
これは駿河湾の沼津。駿河湾でクロマグロなんて、最近はほとんど聞かなくなった。
日本の水産業はまさしく乱獲の歴史なのだ。
それでも自画自賛する水産庁。
そろそろ気付け水産庁!
その2へ続く。
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